推し道ピックアップ

愛知で“そのとち”のおいしいをめぐる。
清流が育む絹のような姫・絹姫サーモン

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昔ここには、
設楽町の営みを象徴し、住人から愛される、鉄道が通っていた。
昭和43年にその姿を消してもなお、誰かが来るのを待っているよう。
今はその想いをたどるように、車を走らせる。
山奥の国道を走ると、
豊かな自然と味わい深い歴史が息づくこの地に、
「絹のような姫」がいるらしい。
自然の恵みというゆりかごの中で、
汚れ知らずに育てられている幻の姫。
うわさを頼りにたどり着いたのは……
ひとつの、小さな養魚場。

推し道MAP

愛知県淡水養殖漁業協同組合について

愛知県淡水養殖漁業協同組合は、愛知県設楽町で1971年から半世紀にわたり淡水魚の養殖事業を営んできました。従業員の規模は30人ほど、愛知県のブランド魚「絹姫サーモン」をはじめ、ニジマスやアマゴ、イワナなどの淡水魚を養殖しています。鮮魚の全国配送にも対応しており、養殖池に泳いでいる魚を注文後に活〆。鮮度抜群の魚が届きます。直売場には育てた淡水魚の甘露煮や昆布巻、一夜干し、燻製などの加工品も並び、お土産にもぴったりです。また養殖・販売以外にも、養殖業者に対して飼料や稚魚の販売 技術指導、大学等と連携した研究・実践など、淡水魚養殖の未来を見据えた活動にも意欲的です。

絹姫サーモンは、主に愛知県淡水養殖漁業協同組合が直営する「宇連養魚場」で育ちます。「宇連養魚場」は全国でも屈指の清流として知られる「寒狭川」の源流部に位置します。絹姫サーモンはここで卵から孵化、稚魚となり、100gほどの大きさになったら、愛知県淡水養殖漁業協同組合の事務所裏にある養殖池へと運ばれ、成魚になるまで育てられます。
標高600mの自然に恵まれた環境と、近代設備のハイブリッドを武器とする「宇連養魚場」。生活排水などの汚水とは一切無縁の、寒狭川から引いた清らかな水で絹姫サーモンは育ちます。

今回は、生産者の魅力を伝える記事制作を手がけるpicks designが愛知県淡水養殖漁業協同組合を訪問。米花晃雄さんに、絹姫サーモンづくりへの想いや養殖へのこだわりについてお話を伺いました。
写真:左から 聞き手:picks design・松浦 愛知県淡水養殖漁業協同組合・米花さん

全国の名店シェフたちを振り向かせた「サーモンを超えたサーモン」

愛知県淡水養殖漁業協同組合が愛知県水産試験場と共同開発し生み出した「絹姫サーモン」。愛知県設楽町が誇るブランド魚であり、日本国内第一号の「ご当地サーモン」でもあります。絹姫サーモンは、見た目の美しい魚とおいしい魚をかけあわせた、いわゆる品種改良のサーモン。「絹姫」という特徴的な名前は、絹のようになめらかな身質で、性別が全て「雌」という特徴から、1992年(平成4年)当時の愛知県知事により命名されました。

その味は、サーモン特有の臭みがなく、さっぱりと淡白。身にはほどよく脂がのり、ほんのりと甘みも感じられます。ハマチに似た硬めの身質で歯ごたえがありますが、噛んでいくとなめらかな舌触りへと変化。その上品な味わいから、特に「女性が好む味」と称されているようです。

また安全面にも美点が。絹姫サーモンは海のサーモンと異なり、安心して生で食べられます。一般的に、海で育った「天然サーモン」にあたるサーモンは、寄生虫を持っている可能性があり、生では食べられません。しかし淡水育ちの「絹姫サーモン」は、育つ環境の違いから寄生虫を持つ心配がなく、また活け締め後の身持ちも良いとされているため、安心して生食でき、「絹姫サーモン」本来の食感・味わいをダイレクトに堪能できます。

「絹姫サーモン」の開発がはじまったのは、遡ること1988年(昭和63年)。当時、国の成長戦略の一つとしてサーモンの養殖が取り上げられ、生食用の大型魚の需要の高まりがありました。この流れをうけて、愛知県における水産業の研究・指導を推進する「愛知県水産試験場」は、これまで蓄積してきたバイオテクノロジー技術を応用して、よりおいしく、見た目も良い新たな魚の開発に着手しました。その研究成果が「絹姫サーモン」です。前例のない取り組みは12年もの月日を要し、1999年にようやく絹姫サーモンの販売がスタートしました。

その上品でクセのない味や安全性の高さなどから「サーモンを越えたサーモン」と高い評価を受け、今や愛知県内の有名ホテルや割烹料理店、寿司店、首都圏の星つきホテルや名店シェフたちのメニューに高級魚として採用されています。

世に出るのはわずか7% 困難な養殖工程と向き合う

「宇連養魚所」には稚魚も合わせて約50万匹もの絹姫サーモンが飼育されています。そして、出荷目安となる2kg程度の大きさになるまでには4年ほどかかるといいます。
さらにその養殖方法は難しく、受精が成功する割合は全体のおよそ30%。さらに成魚まで育つのはわずか7%前後しかなく、歩留まり(生産した数における良品の割合)の悪さからも生産ハードルの高さが伺えます。

「絹姫サーモン」の養殖は「​ホウライマス」と「アマゴ」を交配することからはじまります。母にあたる「ホウライマス」は、斑点や斑紋のない美しい容姿が特徴のマスです。別名「奇跡のニジマス」とも言われ、奥三河鳳来町(現新城市)にあった愛知県水産試験場鳳来養魚場である日突然現れた突然変異種でもあります。ホウライマスは比較的養殖しやすく、成長も早いため、大型化するのが特徴です。
一方父にあたる「アマゴ」は、サケ科の中で味がよく、おいしい魚として有名。しかし成長が遅い上に警戒心が強く、病気にも弱いために養殖しにくい魚です。

こうしたそれぞれの長所・短所をふまえて、薬品や遺伝子の組み替えなしで、良い特性だけを受け継ぐバイオテクノロジー技術を「三倍体技術」と言います。

三倍体技術とは、通常の染色体xx(雌)またはxy(雄)を、温度処理や高圧処理を施すことでxxx(雌)、xxy(雄)と染色体を三つに増やす技術。これにより、遺伝子の優れた特性を受け継いだハイブリッドの品種を生み出すことができます。絹姫サーモンはこの「三倍体技術」で生み出されたハイブリッドの魚です。この技術は養殖業に限らず、野菜や果物などの分野でも普及しています。
「絹姫サーモンは、野菜の品種改良と同じです。薬によって人為的に操作され、安全性が問題視される“遺伝子組み換え”ではありませんので、安心して食べられますよ」と米花さんは言います。

とはいえ新たな品種の誕生は、自然界に放出された場合、生態系を壊してしまうリスクがあります。そのため水産庁はこの分野において様々な規制を設けており、絹姫サーモンも規制対象となりました。具体的には、生殖活動をしないよう性別を全て「雌」にすること、かつ卵をつくらない体質へと染色体操作を行うことです。一見絹姫サーモンにとってメリットのない条件に見えますが、実は良い効果もあり、成熟して卵を持つ通常の魚に比べ、卵に栄養を採られたり採卵後に死ぬリスクがなく、年間を通じて肉質や成長度が安定する魚になりました。

環境変化に弱く、あまりエサを食べない性質

絹姫サーモンの養殖における難しさはどこにあるのでしょうか?一つは「環境変化に弱いこと」だと米花さんは言います。
「温度敏感なので、夏・冬は成長しません。ハイブリッドの品種にありがちですが、環境の変化に弱いのです。雨が降れば養魚場の水は濁りますし、水温は冬には雪が降って冷え、夏には温暖化の影響もありぐんぐん上昇します。その変化に耐えられず、死んでいってしまう個体は多いんです」(米花さん)
こうした絹姫サーモンのデリケートさに対し、日々の細やかな温度管理はもちろん、冬は水温の高い海水をひいてくるなどの対応をしているそうです。また、少しでも強い個体を生むために、自然界の河川で育った親や、病気への抗体を持っていると思われる親から卵をとるなどもしています。

もう一つの問題は「エサをあまり食べないこと」です。
「絹姫サーモンはとても少食。食品となるものは、やはり肥えている方が高く売れますが、絹姫サーモンはエサに媚びないんです。なので4年という長い時間かけて、地道に大きくなるのを見守るしかありません」(米花さん)
絹姫サーモンに与えているエサは、魚粉の少ないオリジナル配合。これまでは魚で魚を育てる時代でしたが、魚粉の少ないエサにすることで身に臭いがなく、特有の風味が生きるおいしい身質になるそうです。

「養殖魚はおいしくない」「自然への冒涜」
たくさんの誤解や非難を乗り越えて……

簡単に育てられず、生産効率も悪い。それでも「少量でも安心して食べられる質の高いものを届けしたい」という思いが、米花さんをはじめ愛知県淡水養殖漁業協同組合の方たちを突き動かします。
しかしその思いは、はじめから多くの人に受け入れらるものではありませんでした。
米花さんは愛知県内をはじめ、全国の飲食店や料理長が集まる会合などに出向き、絹姫サーモンの素晴らしさ、おいしさを知ってもらおうとしますが、「養殖魚」というだけで話を拒否されることもあったそうです。
「虫がいるんじゃないか、おいしくないんじゃないか……中には“これ(ハイブリッドで生み出した魚)は自然への冒涜じゃないか?”と言われたこともありました。本当にいろんなを言われて、トラウマになるくらいでした」(米花さん)
そういった方たちとも米花さんは向き合い、誤解を解き、時に正面からぶつかり合いました。そんな地道な努力と情熱は徐々に相手の心を動かし、養殖魚に対して偏見を持っていた人たちも一変、絹姫サーモンのおいしさに気づき、自身の店で取り入れるようになったと言います。

中には、こんな印象的な出来事も。
「ある世界的フィギュアスケーターが、絹姫サーモンを扱うレストランを訪れたんです。そこで絹姫サーモンのカルパッチョを食べたら……“世界中回ってるけどこんなおいしいサーモンを食べたのは初めて!”とおっしゃったそうで。いやぁ、これを聞いたときは、嬉しかったね」(米花さん)

なぜ、米花さんは立ち止まらないのでしょうか。そのモチベーションを支えるのは、これまで積み重ねてきたことへの自負にあると話します。

「苦労してやってきたからね。一度絹姫サーモンを使ってもらえたら、必ずそのお店は気に入ってもらえるだろうという自負があります。料理長や板前さん、一般のお客さんからもおいしい!と言っていただけるサーモンであることは間違いないんです。生産効率が悪いから……と作ることを避けるのは、養殖業者の技術不足。僕らのレベルが低いということになります。職員にも日々発破かけながら、やり抜いてますよ」(米花さん)


淡水魚のブランド化、そして設楽町という地域のブランド化への貢献を見据える絹姫サーモン。養殖過程においてはまだまだ課題も多く、今後もさらなる挑戦が続きそうです。

「歩留まりの悪さは改善できるに越したことはないので、これからも研究を続けていきます。とはいえ、絹姫サーモンは僕たちにとっての誇り。ぜひ、おいしく召し上がってください。そして設楽町には他にも個性的なお店や特産品がたくさんあるので、この町に遊びにきたら、ぜひ寄ってみてくださいね」(米花さん)

絹姫サーモンを味わえる、設楽町のドライブスポット「道の駅したら」

2021年に開駅した、設楽町の南の玄関口「道の駅したら」。「食べる、買う」、そして「見て、学べる」をテーマに、設楽町の魅力を一日中楽しめるにぎわいの拠点です。
施設内には、設楽町の自然や大地の成り立ち、人々の暮らしを学べる「奥三河郷土館」をはじめ、廃線となった旧豊橋鉄道田口線の車両展示や、日本酒造りを体験できる施設があります。また、産地直送の新鮮な野菜や地域ならではの特産品も並び、設楽町ならではの魅力に触れることができます。
館内の「清嶺食堂」では、数量限定で「絹姫サーモン定食」を提供しています。お刺身とフライの両方で絹姫サーモンを味わえる、ここならではの人気メニューです。
設楽町の自然や文化、食の魅力を一度に楽しめる「道の駅したら」は、生産者の想いが詰まった絹姫サーモンを味わえるドライブスポットとして、旅の途中にぜひ立ち寄りたい場所です。

編集後記

今回の取材では、絹姫サーモンを特集させていただきました。自分の中でも養殖で作られていること、そして今までにない新しい魚もテクノロジーの中で作られているのだと思うと本当に食というのは多様なものがあると感じています。また、今回の絹姫サーモンは、特にあまり餌も食べたがらない魚(太りにくい)なので、生産者としては、量も増やせないし、生み出す過程でも大変な思いで育ててらっしゃるのだと思いお話しを伺っていました。しかし、米花さんの真っ直ぐな思いと、この地域をこの絹姫で盛り上げたいという強い思いを取材すればするほど熱く語っていただけました。撮影の際に、実際に絹姫サーモンがいる魚の生簀にカメラを入れて中を撮影したのですが、とても水も冷たく(スマホで水中を撮影しようとしたのですが冷たすぎて10秒が限界でした)、この豊かな澄んでいて設楽町の自然があるからこそこの絹姫 サーモンの美味しさになっているのかと思いました。生簀の水はすぐ後ろに流れている川からの水を汲み上げ、使用しており普通に飲んでも全く問題がないとのことでした。
今回の取材を通して、絹姫サーモンのおいしさだけでなく、それを育む設楽町の自然の豊かさも改めて感じることができました。
ぜひ現地で、生産者さんが大切に育てた絹姫サーモンを味わってみてほしいです。

山々に囲まれ、澄んだ水が流れる設楽町。
生産者さんの想いに触れたあとだからこそ、この土地で味わう絹姫サーモンは、より心に残る一皿になるはずです。
次のお出かけには、車で設楽町を訪れ、自然と食の魅力を満喫してみてはいかがでしょうか。

道の駅したら

住所
愛知県北設楽郡設楽町清崎字中田17番地7
TEL
0536-63-0120
URL
https://picks-design.com/go/web-2607-2/
備考
館内の【清嶺食堂】にて、絹姫サーモンのメニューを提供しています。
   ・絹姫サーモンの刺身とフライが食べられる「絹姫サーモン定食」
   ・地元の鹿肉と絹姫サーモンの合乗せ「森と川の贅沢丼」
    どちらも数量限定です。

※電話番号は道の駅したら代表直通