推し道ピックアップ

愛知で “そのとち”のおいしいをめぐる。
記憶をたどる、完熟の雫・いちじく

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まちを抜け、田畑の広がる道を走る。
窓の向こうに広がる、夏の名残を残す景色。

その風景に誘われるように、たどり着いた先で出会ったのは
たわわに実るいちじくの木。

かつて庭先で、家族と一緒にもいで食べた、あの味。
やさしい甘さに触れれば、遠い日の記憶が、そっと蘇る。

木の上でゆっくりと時を待ち、
一番おいしい瞬間を迎える、完熟の雫。

その味を未来へつなぐのは、
この地で生きる、三世代の女性たち。

推し道MAP

ファーム大しまについて

ファーム大しまの代表・美智子さんの次男の妻で、現在農園に携わる大島千鶴さんにお話を伺いました。
大島家は代々続く農家です。主に冬野菜をつくっていましたが、4代目の義祖父が高齢となり、農業を続けることが難しくなっていました。そこで「1人でもやる」と立ち上がったのが義祖母です。
重くて力が必要となる冬野菜ではなく、義母とともに女性が主力となって生産できるいちじく栽培へと転換。いちじく栽培をスタートしてから30年になります。
その後、「大きくておいしい」と百貨店の売り場や地元の直売所で評判となったファーム大しまのいちじくは、ホテルのラウンジデザートや航空機の機内食、高級チョコレートの素材にも採用され、売り切れ必至の人気商品となりました。
現在は、こだわりの品質で生果のいちじくを提供するとともに、ジャムをはじめとする加工品も自家生産しています。家族経営ならではのスピード感を生かしながら、ロスを削減するための第6次産業化にも取り組んでいます。

今回は、生産者の魅力を伝える記事制作を手がけるpicks designがファーム大しまさんを訪問。大島千鶴さんに、いちじく栽培への想いやこだわりについて取材しました。
(写真:左から 聞き手のpicks design・松浦、林とファーム大しまのみなさん)

ひと口でよみがえる、懐かしい記憶

愛知県一宮市でいちじく農園に携わるファーム大しまの大島千鶴(おおしまちづる)さん。現在では加工担当として新商品を開発するほか、マルシェに出向いて自ら販売し、次代のいちじく栽培を支えるために日々技術力を磨くなど、農園経営に欠かせない存在になっています。
ファーム大しまが育てるのは、木の上でギリギリまで熟した、朝採りの完熟いちじく。収穫したその日のうちに届けられるからこそ味わえる、やわらかな果肉とみずみずしい甘さが魅力です。
その大きな実を口へ運んだ人たちから聞かれるのが、「懐かしい味」という言葉。かつて庭先の木からもいで食べた、あのいちじくの味です。庭木として身近な存在だったけれど、今ではなかなか出合えなくなったその味が、地域の人をはじめ幅広い世代の人々に、完熟ならではの甘くみずみずしい感動をもたらしています。

自然の中で、自分らしく楽しく働く

農園が人手不足で猫の手も借りたいということでお手伝いを始め、自然の中で仕事ができることにすごく幸せを感じたことが、この仕事をするきっかけとなりました。「自分が必要とされていることが嬉しく、希望を感じたこと。それとともに、幼い頃に畑で遊んだり、実家の祖父母の出荷の手伝いを経験した懐かしい記憶もあったのです」と千鶴さん。その後、出産をきっかけに医療事務の仕事を辞めたことで時間が生まれ、本格的にファーム大しまに携わるようになりました。
千鶴さんは現在、2児の母。子育てをしながら仕事をするにあたり、農業が良かったことは「いつやってもいいところ」だと語ります。自分が早起きをすれば早朝に時間を作ることができるし、夜は子どもが寝てからジャム作りをすることもできます。「会社勤めだったらこんなに自由に楽しく仕事をしながら育児はできなかっただろうな」と千鶴さん。 2人目の時は、生まれるその日まで働いていました。加工をメインに担当していることから、家事とあまり変わらないジャム作りやパッケージ詰めはギリギリまでできたのです。

そんな千鶴さんが、農園で働くなかでお手本にしてきたのが、義母と義祖母です。
「おかあさんやおばあちゃんはすごくかっこいいのです」と千鶴さん。「女性がやっている以上、農園は入った時にきちんと掃除がしてあることが大事」と言われており、自分がかっこいいと感じる服を着て、楽しく仕事をしようとしています。実は、加工品のパッケージも30年前から同じデザインなのですが「私もかっこいいなと感じていますし、自信を持って商品を出せます」
かっこよく、そして楽しく働く。そんな義母や義祖母の姿も、千鶴さんが受け継いでいるもののひとつです。

世代交代の時期を迎えるいちじくの木、そして、人

「木を見て、水がほしそうだったら水をやる。元気がなさそうだったら、肥料をやる。木をちゃんと見ることが大事」美智子代表が大切にし、千鶴さんにも伝えてきた言葉です。いちじくの木は2月に強剪定、4月に芽吹き、5月下旬に結実、8月から11月半ばまでが収穫、12月頃に落葉。どこで枝を切るか、どの芽を選ぶか、その作業のひとつひとつに経験と技術が問われます。
なかでも、いちじくの味に直結するのが完熟の見極めです。「1日でも早く収穫すると、味が違ってきます。今の私はすべてを自分でできるわけではないので、義母にいろんなことを質問しながら技術を受け継いでいきたい。それがいちじくの品質に直結する、自分にできることかなと思っています」と千鶴さん。30年目を迎えた農園では、一昨年くらいから傷んできた木を伐採し、新しい苗木を植える作業をスタート。「うちはいちじくが世代交代、家族の経営も世代交代という変化の時期を迎えています」と千鶴さんは語ります。
いちじくは収穫量に限りがあり、注文をいただいてもお断りすることがあるとのこと。できるだけ多くの人にお届けしたいという想いに対しては、人を増やしたり、土地を広げるのではなく、弱ってしまった木が元気を取り戻す努力をして、枝を高く伸ばし、新しい木を育てて、上手に世代交代していく。栽培の技術力が収穫量にも変化をもたらすと考えています。

いちじくは少しでも時期を逃すと熟しすぎてしまい、雨に打たれると見た目が悪くなるなど、ロスの多い果実です。「義祖母と義母は、昼は農業をして、夜はジャムを炊くという生活をしながら加工を続けてきました。いちじく農家をやっていくにあたり加工は絶対に必要だと我が家では考えています」と千鶴さん。
ファーム大しまでは、人気のジャム、グラッセ、コンポートに加え、3年前から冬季限定でグラッセチョコバーの販売を開始。自分が新商品をつくるとは思っていなかった千鶴さんでしたが、その後も日本のいちじくでは難しいと思われていたドライイチジクを商品化。気に入ってくれるお客様もできて「今ではおもしろさややりがいを感じるだけでなく、加工担当としても少しは貢献もできたかなと感じています」
義祖母、義母から続く加工の仕事は、千鶴さんの手でまた新しい形へと広がっています。

完熟朝採れで届ける もぎたての味わい

ファーム大しまのいちじくは、大きくて甘く栽培もしやすい「桝井ドーフィン」が8割を占め、次に外皮が濃い紫で中身が濃い赤、きれいでおしゃれな味がする黒い「ビオレソリエス」を多く生産しています。少し前までは日本いちじくの在来種「蓬莱柿(ホウライシ)」を育てていましたが、木の調子が悪く販売できない程の収穫量になってしまったため、近年は緑系の「ダルマティ」や「スイベルキャンディ」に力を入れています。「緑や黒の品種は数量が少なくいつ出回るかも確約できないため、出合えたら幸運だと思ってもらえれば」と千鶴さん。夏には農園に直売所も併設していますが、ファーム大しまのいちじくは一宮市千秋にあるJA南小渕直売所、浮野養鶏が運営するうきうき村、農業屋一宮千秋店などでも購入できます。

ファーム大しまのいちじくは、流通規格では規格外になる程の大きさ。お客様からは「大きくて嬉しい」「スーパーで買うのとは違う」「これなら食べられる」などの声とともに「懐かしい!この味だ」という声が届きます。かつては庭木として身近な存在だったいちじくですが、カミキリムシ被害の拡大などにより、今ではなかなか口にすることのできない懐かしい味になってしまいました。
庭で家族と一緒に食べた、もぎたてのいちじくの味――。
スーパーなどに卸す農家さんは出荷したその日に店頭に出すことが難しいため、少し早めに収穫して出荷します。一方、ファーム大しまでは朝採ったものをその日のうちに自分たちで届けて直売所などの店頭に出せることから、ぎりぎりまでいちじくを木に生らせておいて本当においしい完熟の状態まで待つことができます。「だからこそ、お客様には『懐かしい味。木からもいで食べたあの味だ』と感じていただけるし、自信を持って出荷できているのです」と千鶴さんは語ります。

完熟いちじくだから1、2日以内が一番おいしい

「うちのいちじくは一番おいしい時に収穫していると自分たちでは思っているので、お届け当日に召し上がっていただくのがおすすめです」と千鶴さん。「冷蔵庫で2、3日は保存できると思いますが、完熟いちじくのおいしさを感じていただくためには、翌日までには召し上がっていただければ嬉しいです」

生果のいちじくの一番おいしい食べ方は、冷やしてそのままいただくものです。まずは完熟ならではの味わいをお楽しみください。また、いちじくは乳製品と相性がいいので、クリームチーズ、モッツァレラチーズ、ブルーチーズなど、いろんなチーズと合わせてお好みの味を見つけてみてはいかがでしょうか。
フレッシュないちじくで作る「生ハムいちじく」は、皆が好きな定番料理。簡単なのに前菜やお酒のおつまみにもなるおしゃれな一皿です。一方、トーストにスライスしたいちじくとクリームチーズをのせた「いちじくトースト」は、朝食や休日のブランチにもぴったり。はちみつやメープルシロップ、くるみをかけていただくと、まるでカフェのデザートのような仕上がりになります。

ファーム大しまの加工品はオンラインストアでも購入が可能。「いちじくジャム」はプレーンヨーグルトに入れたり、トーストに塗ってもおいしくいただけます。また、「いちじくグラッセ」にブルーチーズを合わせてワインをいただくという方もいらっしゃいます。
生果とはひと味違う、いちじくのおいしさを楽しめるのも加工品ならではです。

ファーム大しまのいちじくに出合える「うきうき村」

ファーム大しまのいちじくを購入できる場所のひとつが、一宮市千秋町にある浮野養鶏直売所「うきうき村」です。地元で養鶏業を営む浮野養鶏の直売所で、養鶏場から届く新鮮な卵をはじめ、地元で採れた野菜や加工品などがずらりと並びます。
旬の時期には、ファーム大しまの完熟いちじくも店頭へ。並べると次々に売れていくほど人気で、売り切れてしまうことも多いそうです。生果だけでなく、いちじくジャムなどの加工品も販売されています。旬の時期にしか味わえない完熟いちじくを、ぜひ店頭で手に取ってみてください。
そこで待っているもうひとつのおいしさが、浮野養鶏自慢の「尾張の卵」です。特長は、黄色というよりオレンジ色に近い濃厚な黄身。卵特有の臭みもなく、まずはシンプルな卵かけご飯で味わうのがおすすめです。
撮影に訪れた際には、スタッフの皆さんから「うちの卵を一度食べたら、もうほかの卵は食べられない」という言葉も。鮮やかなオレンジ色の黄身と、臭みのない濃厚な味わい。一口食べれば、その言葉に込められた自信にも納得です。
ファーム大しまの完熟いちじくはもちろん、浮野養鶏自慢の「尾張の卵」にも出合えるうきうき村。一宮へのドライブで、ぜひ立ち寄りたい場所です。

編集後記

今回の取材でまず印象に残ったのは、ファーム大しまがいちじく栽培を始めたきっかけです。女性が中心となって育てていくために、重くて力の必要な冬野菜ではなく、いちじくを選んだというお話はとても新鮮でした。普段は食べる側として「何がおいしいか」という視点で果物を見ていますが、農家さんにとっては「自分たちがどう育てていけるか」という視点から作物を選ぶこともあるのだと、改めて気づかされました。
ご家族皆さんで協力していちじくを育てていることも、今回の取材で印象に残りました。千鶴さんは今も、美智子さんにいろいろなことを尋ねながら、いちじく栽培の技術を学んでいます。いちじくの選果作業も、まだまだ美智子さんのほうが速いのだとか。お話を伺うなかで、30年間培ってきた技術が、家族の中で少しずつ受け継がれていることを感じました。
そして、いちじくは収穫する時期によっても味わいが変わるそうです。今回の取材はシーズンの比較的早い時期だったため、いただいたいちじくはみずみずしく、フレッシュな甘さが印象的でした。これが収穫の終盤になるにつれて、より熟した甘さへと変わっていくのだそう。同じファーム大しまのいちじくでも、時期を変えて食べ比べてみるのも楽しそうです。

完熟いちじくに、新鮮な卵。そして一宮といえば、やっぱりモーニングも。
車を走らせた先で、まだ知らないのに、どこか懐かしい。そんなこのまちの味に出合ってみてはいかがでしょうか。

うきうき村

住所
愛知県一宮市千秋町浮野字下向得19
TEL
0586-76-7335
URL
https://picks-design.com/go/web-2608-1/
備考
一宮市浮野養鶏株式会社が運営する直売所です。
   営業時間:9:30~16:30
   休館日:毎週木曜日